魑魅魍魎の菊
菊花が指をスナップすると、スザクの首は解放されて呼吸できる状態になった。
嘔吐しそうになるが、ここを踏み留めないといけないような気がするスザク。そして、肺の中に沢山の空気を入れる。
「き、貴様!人間なのだろう?!どうしてこんな!」
「ハイその質問スルーです」
ていうか、鬼でも首絞めたら死んじゃうんだね。初めて知ったよ。
「っ…何故、影使いが…」
「おっと、それは良い機会だから答えましょうかね。私は世に珍しいと言われる《影》を操れます。妖怪や神なんて夜行性だからあんまり関係無いでしょうけど——」
「俺は昼間でもそこらを散歩するぞ」
「ハイ、茶々入れないでくださーい。何か全てぶっ壊れそうだから」
嫌だよ、昼間から鬼が散歩しているとか…。本当にこの地域大丈夫なのか?!
菊花の思考を読み取ったのか毘沙門天はまた豪快に笑う。
「スザクよ、わしは自然を扱えん。残念ながら自分で解決しろっ!」
どうしよう。体育の先生を彷彿させるのですが毘沙門天サン。
「まぁ良いや…。とにかく私は《影》を操れますよ。でもね、《影》は本来妖怪や神には関係がない、夜に行動するからね」
そう——
残念ながらここは《現代社会》。丑三つ時になっても影に必要な光が溢れていることを忘れちゃいけない、
このネオン光る街、光に溢れているのだ。だからこそ、私は夜になっても《影》を操れるの。
「そして私は妖術も心得ている」
「…妖術だと?!」
"妖術"
まぁ、平たく言えば黒魔術のような代物で人間に害を与える術ということだ。
スザクさんの瞳が段々と侮蔑の表情へと変わる。
「貴様っ……人間なのにどうしてそんな事を!」
「"人間なのに"?私、スザクさんのこと傷つけたくないから手荒なマネしないけど。
——人間に情けをかけるなど、落ちぶれたものだな」
本来妖怪は人に畏れられなければならない存在だ。
…まぁ良い。私はこんなところで時間を潰している暇なんて無い。