巡る巡る
先月
あたしが忘れていった教科書を高山君がわざわざ届けてくれて、
それから、ちょっとずつだけど彼と話せるようになって。
いつも緊張しちゃって、上手く話せないあたしに
高山君は優しく笑ってくれる。
その笑顔を見ると、
あたしは凄く安心するの。
それと同時に、
心がギュッと締め付けられて、さらにドキドキが加速する。
今まで後ろ姿を見つめる事しか出来なかったから、
ほんとに少しの会話でも、
彼があたしにくれる言葉が凄く嬉しかった。
高山君は持っていたビニール傘をバサッとひろげた。
雨の下へ一歩前に出る。
「…相沢?帰んないの?」
あたしが昇降口の屋根の下から動こうとしないのに気づいて、
前に出た高山君が振り返って言った。
「あたし今日傘忘れちゃったし、
…もう少し小雨になるまで待ってみるよ。」
そう答えて笑うあたしに、
彼は「ふーん」と声を漏らした。