とおりゃんせ2~日村令子の場合~
『・・・もう1本・・?!』
由里はハッとした
声の出所を探すと由里の親友の紗英が観客席から叫んでいた
いつのまにか 由里はテニスコートの上に立っていた
由里はいつものクセで スコアボードをパッと見た
『ジュース…から1本取って…あともう1本か・・・』
インターハイの最終予選と全く同じシチュエーションだ
『…という事は…私のサーブ・・・』
いつの間にか白いボールが手の中にある
由里はサービスポジションについた
相手コートを見据えるが まだ目が霞んでいる
ボーッとして相手の姿さえよく見えない
「由里~~~~~っっっ!いつもの調子でイケーーーッ!!」
『お父さんだ・・・いっつも恥ずかしいんだよね・・・あんな大声で・・・
小学生の運動会じゃない!ってゆーの!!・・・でも・・でも・・アリガトね・・・お父さん・・・この日を休むために 毎日遅くまで残業して帰って来てたよね・・・分かってたよわたし・・・お父さんの大きさも優しさも・・・わたしの事・・どれだけ愛してるのかも・・・』
「くぉるぁ~~~~~~~!!!姉ちゃんキメろーーーー!!
ここでキメなかったら『嵐』のポスターに落書きするからなーーーっっ!!!」
『悠人ったら…弟のくせに…!!ちょっと・・それヤメてよね!!あのポスターは限定モノなんだからっ!!
ホント生意気になっちゃって・・・ でもアンタにはいつも元気と勇気もらったよ・・アリガトウ・・・』
「由里・・・落ち着いて!大丈夫、大丈夫!!神様っっ!!どうか由里をお願いします!!由里を助けてくださいっ!!」
『あー…お母さんも今日は見に来てたんだ…
お母さん、お弁当美味しかったよ・・・いつも家の事で一番最後に寝て・・・私のために一番最初に起きてたね・・・アリガトウ・・・アリガトね・・・
わたし・・言い訳ばっかりして・・・なんにも手伝いなんてしなかったね・・・親不孝な子供だったね』
由里はよく見えない目でサーブの体勢に入った
いつもの練習通り・・・いつもの風・・・いつもの感覚・・・
由里に迷いは無かった