とおりゃんせ2~日村令子の場合~


『・・・もう1本・・?!』


由里はハッとした

声の出所を探すと由里の親友の紗英が観客席から叫んでいた


いつのまにか 由里はテニスコートの上に立っていた

由里はいつものクセで スコアボードをパッと見た


『ジュース…から1本取って…あともう1本か・・・』


インターハイの最終予選と全く同じシチュエーションだ


『…という事は…私のサーブ・・・』


いつの間にか白いボールが手の中にある


由里はサービスポジションについた


相手コートを見据えるが まだ目が霞んでいる


ボーッとして相手の姿さえよく見えない



「由里~~~~~っっっ!いつもの調子でイケーーーッ!!」


『お父さんだ・・・いっつも恥ずかしいんだよね・・・あんな大声で・・・

小学生の運動会じゃない!ってゆーの!!・・・でも・・でも・・アリガトね・・・お父さん・・・この日を休むために 毎日遅くまで残業して帰って来てたよね・・・分かってたよわたし・・・お父さんの大きさも優しさも・・・わたしの事・・どれだけ愛してるのかも・・・』


「くぉるぁ~~~~~~~!!!姉ちゃんキメろーーーー!!

ここでキメなかったら『嵐』のポスターに落書きするからなーーーっっ!!!」


『悠人ったら…弟のくせに…!!ちょっと・・それヤメてよね!!あのポスターは限定モノなんだからっ!!

ホント生意気になっちゃって・・・ でもアンタにはいつも元気と勇気もらったよ・・アリガトウ・・・』


「由里・・・落ち着いて!大丈夫、大丈夫!!神様っっ!!どうか由里をお願いします!!由里を助けてくださいっ!!」


『あー…お母さんも今日は見に来てたんだ…

お母さん、お弁当美味しかったよ・・・いつも家の事で一番最後に寝て・・・私のために一番最初に起きてたね・・・アリガトウ・・・アリガトね・・・

わたし・・言い訳ばっかりして・・・なんにも手伝いなんてしなかったね・・・親不孝な子供だったね』


由里はよく見えない目でサーブの体勢に入った

いつもの練習通り・・・いつもの風・・・いつもの感覚・・・

由里に迷いは無かった
< 30 / 62 >

この作品をシェア

pagetop