昭和お笑い暗黒史────戦艦「大阪」解体大作戦


そして、それから1時間後。

俺の前には、赤茶げた錆に覆われた、巨大な建造物が横たわっている。






俺を呼び止めたのは、吉本の本社の、滅多にお目にかからんような偉いオッサンやった。

その、名前もよう知らんオッサンが開口一番、

「梶山くん、キミ、昔、解体業者でアルバイトしてたってホントかね?」

「……………はぁ。」

訝しみながらも、肯定の返事をした。事実だからだ。

すると、オッサンは満面の笑みを浮かべ、俺の手に何か握らせた。そして、

「実はキミに頼みたい仕事があるんだ。詳細は現地に着けば分かる。とにかく、向かってくれ。」

そう言って、半ば俺を引きずるようにして吉本本社まで連れてきた上に、ボロッボロの古臭いエレベーターに押し込んだのだ。

着いたフロアからさらに裸電球の連なる道を進むこと10分。その場所に、この、錆の塊があった。






改めて、オッサンに渡されたモノを見た。

百均で買ったと思しき、プラスのドライバー………。

「……冗談もたいがいにせえよ!ホンマ!!」

怒りに任せて、ドライバーを床に叩きつけた。

要は、コレをバラけ(解体しろ)、という事なんだろうが……、

いくら芸人の人権を無視する事に関しては天下一品の会社だからといって、横暴にも程がある。

そもそも、解体、と一口に言っても、素人が考えている程簡単ではない。

力の係り具合を慎重に見極めながらでないと、どんな壊れ方をするか分からんし、廃材も大量に出る。周りに人家がある場合は埃や騒音に気をつけにゃならんし、地下もちゃんと調べんと、古いガス管が埋設されていたり、空洞にメタンガスが溜まっている場合がある。下手すりゃ「ドカン」、だ。

他にも理由はいくつでもあるが、とりあえず当面の問題としては………、

「こんなデカいモン、ひとりでバラけるワケないやろがーーーーっっ!!!」

俺の叫びは、地下の空洞に虚しく響くだけだった。




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