しなやかな腕の祈り
その日あたし達が練習したのは
いつかスペインで踊った"ファンダンゴ"だった。


無駄に体に力が入る。


力が入りすぎて、足がもつれてしまう。



「トビ、どうしたの???
今日調子悪かったよね。
トビの得意なファンダンゴなのにさ」



練習後、望美は心配そうにあたしに話し掛けてきた。



「興奮してんのさ。
曾根崎心中とかやれるって聞いて」



あたしは…本当に興奮していた。



小学生のとき、初めて舞台に立ったあの時みたいに。



もしかしたら、あたしに曾根崎心中のメインが回ってくるかも…

そんな期待も勿論あった。




多分、無理だろうけど。




望美の方が可愛いし
望美がメインに抜擢されるだろうから。



サパトスを荒々しく靴箱に突っ込んで
あたしは無言で更衣室を出た。


冬の空は澄んでいて、今にも雪が降り出しそうだ。


車まで歩きながら練習後初めて、携帯を開いた。


"着信1件"と表示されている。




隆弘だった。





珍しい事もあるものだ。

隆弘が電話をかけてくる用件だから、仕事の連絡網だろうけど。
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