<超短編>月との距離。
わかっていること。
彼は子持ちだった。
私と彼は、いわゆる不倫だった。
途中まではよかった。
秘密の恋も楽しかったし、後腐れもないのがよかった。
でも、ある時、彼の嫉妬心でバランスが崩れた。
ならば、より崩そうと思った。
どうせ、芽もでなければ、花さえ咲かぬ戯れの恋だ。
でも、口には出さなかった。

「もう、やめよう。」
言ったのは、私からだった。
その夜、彼は泣きながら、ネオンに消えてった。

かつては寄り添ってた星と衛星だったのにね。
私は彼がイヤになって、ちょっとずつ離れた。
いつのまにか、とっても遠くなってた。
去り行く彼をみながら、去っているのは私なのか彼なのかわからなくなった。

友人は言った。
「地球が月から離れてるのか、月が地球から離れてるのか。どっちかな。」
わからないとおもった。
どっちでも、私たちは二度と混じり合わないことだけは、わかっていた。
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