ろく


「猫がさ……いや、いい」


仲直りをして初めてのデート。

車の中で航太はそう言い掛けて止めた。


−猫?

「いや……。どうしようかな? 信じてもらえないかもしれないけど、優子と仲直りしようとしたきっかけがさ、猫なんだ」

−どういうこと?

「いやな、仲直りしようという気持ちがあったことは前にも言ったよな? だけど、きっかけがなくて、あの日もずっと考えていたんだ、家で」

−うん。

「気分転換に庭に出て体を動かしてたんだ。その時、縁側に置いてた携帯を猫が持って行こうとしてた」

−猫が?

「うん……。でさ、慌てて追い払うと、最初は少し離れたんだよ。でもさ、オレが届かないような距離でじっと見つめるんだ、猫が」

−うん。

「猫はすぐにどっかに行ったんだけど、携帯の画面を見ると『通話中』になってて、慌てて出たんだ」

−私に掛かってた……と?

「まあ……、仲直りしたからどうでもいいんだけど、何か作り話みたいで言えなかったんだ。B級映画みたいだしな。言い訳がましいし。忘れてくれ」


航太は笑いながらそう言った。

まさか……。

たまたま……だよね?

たしかにろくは不思議な猫だったけど……。
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