花が咲く頃にいた君と
「い、いつも自分でお弁当作ってるって!冬城さん前にお友達に話てたから。…あっ!ごめん。決して盗み聞きしてたわけじゃなくて、聞こえてきただけで、それから、指先が器用なのかと思って!」

目を回しながら、しどろもどろに答え彼が面白い。

だからつい、吹き出してしまった。


「ほ、本当にごめん」

「ん。全然気にしてない」


彼はホッと胸を撫で下ろすと、その綺麗な手を優雅な動きであたしに差し出した。


「僕は、東向日 如月(ひがしむこう きさら)、よろしくね」

「冬城 結女、こちらこそ」


彼の手に重ねた手が、あまりにもみすぼらしくて、悲しくなった。

ガサガサで荒れたい放題、指はささくれだらけで、丸いし短いし、いかにも使い古された感じの手だ。


「あたし、答え書いてくるね」

恥ずかしくてスッと手を引っ込め、ノート片手に黒板に急いだ。


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