ブルービースト
「別に怒ってません」


明らかに機嫌が悪いユノは、ブロードの方も見ず言った。


隊長はなんかしたっけな、と必死に考えながらも待ち合い室の扉を開く。



「ここで待ってて」


「……………………。」


「大丈夫、後で呼ぶから」



そう言って微笑む彼の表情は、驚くほど優しかった。


いつものヘラヘラ顔じゃないそれに、ユノはまた複雑な気持ちになる。



(アホらし…)


何だか意味もなく怒る自分が虚しくなり、ユノは無言で頷いた。


それに気をよくしたブロードは、ユノに紅茶を奢ってから部屋を出る。


その背中に、補佐は咄嗟に声をかけた。



「あんまり長くは…」


「わかってるよ、女の子待たせるのってよくないらしいしね」


一体どこからそんな知識を受け継いだのか。


口説き文句みたいなそれにもユノは苦い顔をする。


ブロードは苦笑して待っててね、と釘を刺すと今度こそ扉の向こうから姿を消した。


取り残されたユノはとりあえずストレートティーを啜る。



(病院…。誰かの見舞い?)



頭の中でそんなことをぐるぐると考えるが、やっぱりそれもアホらしくなってやめた。


あの人の行動はいつも読めないし、と無意味だと悟ったのだ。




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