ブルービースト
「…安心しろ。軍を抜けろなんてことは言わない」
身をすくめた蒼から手を離し、キィルは言った。
ブロードはほっとしたかのように肩を落とす。
それは彼の言葉に対しての安堵なのか、手が離れたことへの安堵なのか。
おそらく両方だろうと予測したアサギの前で、敢えて気付かないフリをするキィルは今度は違う話題に入った。
「さてと。さっきセリナ=フローレイから聞いたのだが…」
むに。
ブロードの頬がつままれた。
きょとんとする息子のそれを捻り上げ、キィルは無表情で言う。
「また無理をしたらしいな」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
「たった二人で敵陣の中心地へ乗り込んだんだと?」
「ごごごごめんなひゃいしゅみましぇんれした!」
「ごめんで済むなら体罰はいらない」
「けいしゃつ(警察)じゃなくて!?」
ぎゃあぎゃあ喚く蒼と、えらく静かに怒る若草色。
アサギは待ってましたとばかりにその光景を眺めた。
ブロードには悪いが、なかなかこの図は面白い。