ブルービースト
『カイトウ?何それ。レンジでチン?』
その話を持っていったとき、ブロードはそう言って首を傾げた。
レイツに突っ込まれて、口を尖らせていたのだってまだ記憶に鮮明である。
そんな“怪盗”という言葉すら知らなかった馬鹿息子をそこへ向かわせたのは、ほぼ賭けと言ってもいいものだった。
必要だったのは、腕。
素早さと的確さを兼ね備えた、戦闘力だったのだ。
ただ、キィルの予想に反しブロードは戦わなかった。
その怪盗を見て、一言呟いたのだ。
『馬鹿にしてる?』
「……んん…スルメがイカぁ…」
は、とその声で我に返った。
見てみると、なんとまあ幸せそうに眠っている。
何だ寝言か、と詰めていた息を吐き出し、キィルはこちらもいつの間にか寝てしまったポチを布団に入れてやった。
寝言の内容が気になったが、あえてそこには触れないことにする。
「……馬鹿息子め」
そっと蒼い前髪をかきわけ、光を映さなくなった右目に眼帯の上から触れた。
…あの、怯えよう。
余程怖かったのだろう、自分に話すのが。