緑の魔法使い
だってとても普通じゃない治療方法にもうちょっと胡散臭さをもつべきではと思うも
「今まで薬の実験台みたいな治療法ばかりでしたので少々普通なので驚きました」
「そうでしょうか・・・」
「今までで薬は最悪に不味くて苦くて臭いですけどね」
思わず同情してしまう。
「短時間で効果があるのは正直この後のリバウンドが怖いですが、ここまで楽になったのは初めてです。
あえてその腹痛と発熱に挑みましょう」
何処か初めて見る希望を持ったその表情に俺の心の中でもやもやしていた物が払拭される。
初めて見るお嬢様の表情にただの我儘なお嬢様ではなくて、そうでもしなくては耐える事が出来ない心情がちらりと窺えた。
健康な人が総て羨ましく恨めしく見える。そんな所にお嬢様は居たのだと判ってはいても初めて知る事が出来た。
背中の湿布を全て終われば下がれと言われて階下へと向おうとすれば綾瀬川さんがやってきた。
「今夜の事ですが、お嬢様の布団を下に・・・」
きっと体調を心配しての耳打ちだろう。
「羽鳥から話は聞きました」
襖越しからお嬢様の声が凛と響く。
「確かに下の方が不便は少ないでしょう。出来る限り都合のよい場所を橘様にお借りしなさい」
綾瀬川さんはおや?と言うように目を見開き、それから目尻を下げながら嬉しそうに
「承知しました」
そういって布団を降ろす準備を始めた。
俺の手は・・・薬まみれであまりの悪臭を放つので先に手を洗わせてもらう事にした。
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