運命
「あの子…ここで降りないと白百合には行けないのに…」

まぁ良いやと実は歩き出した。
緑が続く道の奥、レンガ造りの校門前に友達が待っている。

「おはよ」

友達に声をかけるが返事はなく、ただコクリと頷いたその友達は、じっと実を見つめていた。

「どうせお前今日の小テスト余裕なんだろ」

友達はぎこちない返事をする。
実は更に気が滅入る。
1限目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

「先行ってテストの勉強しとくよ」

友達を置いて走って行った実は1-C教室のドアを開けた。
まだ教師が来ていないのか生徒達は自由気ままに教室内を移動していた。
勉強する者、鞄を投げ合う者、一つの机に8人位密集して雑談する者。
多種多様の教室に実はテンションが上がった。

「おう。お前寝坊してテスト勉強してなかっただろ」

声を掛けてきたのは、竹中 慎吾だった。
小麦色に焼けた肌、短髪できまった髪型、端正な顔立ち、明るい性格。
幼稚園から同じだったが、小・中と常にクラスの人気者であった。
そして、この霞ヶ浦高校でも即ムードメーカーへとのし上がっていた。

「なんで分かるんだよ」

実は朝の忙しさのせいでむしゃくしゃしながら自分の席に座った。
ここ、と慎吾に寝ぐせを指さされ実ははぁとため息をついた。
他愛も無い会話をしているとさっきの友達が入ってきた。
この友達は身長も高く、顔立ちも整っており容姿は良いが、口数が物凄く少なく、独り言が多いという理由で、男女共に気味悪がられている。

「佑太、おはよ」

慎吾が声を掛ける。

「…」

蚊の鳴くような声で佑太は何か独り言を言っている。

「公約数…賢い…?佑太、なんだよそれ。もうちょっと大きな声で言えって。」

慎吾がちゃかすと佑太の中に棲む蚊は死んだ。
嫌な空気が実達を包み込んだ。

「慎吾、佑太、まだ先生来ないみたいだし勉強してようぜ」

慎吾は乗り気になっているようだが、佑太はこの誘いを断った。
実が慎吾と二人で勉強していると、ようやく先生が現れた。



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