運命
途端

「え?」

教室中がざわめいた。

「はい、座ってー」

「なんで、みっちゃんなんだよ」

慎吾が驚いて先生に向かって尋ねた。
入ってきたのは実達のクラスの担任であり、英語の担当である、谷口 美智子だった。
生徒たちからはみっちゃんと呼ばれている。慎吾が実の隣、窓際の自分の席に座る。

「今から事情を話すからよく聞いてね。まず、今朝この時間の担当をしてくださる古典の永山 聡先生が事故にあわれて、入院される事になりました。」

生徒達のざわめきがぴたっと止まった。時間が、止まった。

「よって、この時間は自習時間になりました。英語の質問ならこの時間に聞いときなさいよー」

そう言い終わると谷口は教卓の上に出席簿を取りだし名前を呼び始めた。
その途端教室中の時間が流れ始めた。
生徒全員が気になる事がある。ましてや、実にとってとても重要な事が。

「みっちゃん!」

慎吾が第一声を発した。

「何?」

「今日、古典のテストがあるはずだったんだけど、どうなるんだ?」

生徒達が固唾を飲んで答えを求める。

「あぁ、ごめんごめん。それについて言ってなかったわね。」

教室の時間が遅くなる。同時に実の鼓動が速くなる。秒針が、一秒、進んだ。

「古典の小テストは」

秒針が二目盛進む。

「中止になります。」

時間が、再び止まった。
誰かが一文字声を発した途端、その時間は急速に進みだす。

「やったー!」
「ラッキー!」
「よかったー」

歓喜の声が教室を食らった。
同時に、実の心を食らった。

「まさか…」

実の席からだけ、歓喜の声は上がらなかった。

「どうでも良いや…」

佑太が、呟いた。


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