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ブリアさんが足を踏み入れると、明かりが自然に点いた。こんなの見た事なかった僕は、かなり感激した。でも、今は時間がない。驚いている場合じゃない。
何台もある不思議な機械の中から、ブリアさんは真っ黒な流線型の機械の前で止まった。
「よし、これで行こう。」
「これ?」
艶消しの黒が、妙な迫力を醸し出している。
「これって乗れるの?」
「あぁ。この中にあるやつでは、一番速い。そして・・・運転が簡単だ。」
ブリアさんの目が泳いでいる。
「どうしたの?なんか変だよ。」
「いや、何、この“鮫、宙を舞う”は、お嬢様達が子供の頃、遊ばせるために作られたものなのだが・・・それ故に、乗り心地は最悪なんだ。他のものは何ともないんだが、こいつだけはどうにも慣れなくてな・・・。」
その時だ。流線型の先が割れ、まるで獲物を喰らう鮫の口のようになった。そして、すごい勢いで閉まった。
それがブリアさんをかすめる。
「うわぁっ。」
僕が驚いているのに、ブリアさんは至って冷静だ。
「ははは。驚いたかい?これは生きているんだよ。だから、悪口を言われると、今みたいに拗ねる。」
「拗ねる?」
そんなかわいいものには思えない。少し間違えれば、大けがをする勢いだ。
「そう拗ねる。こういう所はとてもかわいいのだがね・・・。それより急がないと・・・。乗って。」
ちょうど、背中がくぼんで、二人が乗りやすくなっている。
「メルツ、おいで。」
メルツは僕に飛び乗ってきた。落ちないように、服の中にメルツを押し込んだ。
「これで大丈夫・・・。」
と言い終わらないうちに、空を飛んでいた。僕が言術を使った時と違って、流れる景色が溶けているようだ。
すごい風圧で、呼吸もままならない。
最悪の乗り心地と言った意味が、十分すぎるほど理解できた。
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