猫とうさぎとアリスと女王

　「いつも来る男、あれお前の兄貴？」


僕は驚いて奏芽君の顔を見た。

何故、知っているんだろう・・・。


「そんな顔すんなよ。別に椎名のこと追っかけてる訳じゃねえし、素性調べてる訳でも無えから安心しな。
ここからよく見えるんだよ。お前とその男。」


僕は手すりの隙間から下を見下ろした。

そこはいつもの見慣れた風景で、タケが毎回迎えに来てくれる場所だった。
奏芽君はここから僕とタケが一緒に帰るところを見ていたようだ。


「あの人は・・・母親の会社の人。」


自分でその言葉を吐き出してなんだか悲しくなった。

所詮、タケと僕の関係はそういう薄っぺらなものだと気付いてしまったから。
友達とも親友とも言えない、そんな関係。

距離は縮まっても、それを表現する言葉は無いんだ。


「へえ・・・。仲いいんだな。」

「えっ？」

「普通、母親の会社の人間が学校まで迎えに来たりしねえだろ。だからすげえ仲いいんだなって。」


そういうものなのかな・・・。

僕とタケって一体何なんだろう。“仲良し”なだけなのかな。
それ以上には、なれないのかな。


「椎名ってさ、いっつも無表情で無愛想でつまんなそうな顔してるよな。」

「あんまり話したこと無いのに失礼だよ。」


そう言うと奏芽君はケタケタと笑う。

笑い方も凄くタケと似ていた。


「でもここから見てて思った。
お前さ、その男と会う時すっげえ笑顔になってんの。あんな顔するんだな、お前。」


それを聞いて僕の顔は真っ赤になった。

自覚、してなかった・・・！僕ってそんなに感情が表に出るタイプだったっけ？


「そんなに、顔に出てる？」


恐るおそる聞いてみれば、奏芽君は大きな声で笑った。


「顔に出てるなんてもんじゃねえよ！お前、自覚してねえの！？
ありゃ誰が見たって同じ事思うよ。
俺、お前がその男に惚れてると思ったぐらいだぜ。でもそりゃ有り得ねえから、兄弟か何かかなーって思ってさ。」


後半の言葉に、僕の心臓が跳ねた。

奏芽君って勘が良すぎる！