こころの展覧会

浴室にはいると、湯船は用意されていたのか、冷えた身体をあたためるのに最適な温度だった。

血が身体中をめぐっていくのと同じくして、思考がようやく戻ってきた。

何故、ついてきてしまったのだろうか。
言われるがままに湯船につかっている自分に問う。


知らない町。
知らない人。
知らない家。

普段の自分なら、こんな事は有り得なかった。
いつもの自分なら、知らない人に話しかけられても無視をするし、ましてはついていくことなどはしない。


あの時ーーー自分はふつうではなかった。


そして、橋の上で女性が言ったことを思い返した。


―――要らないなら、……私が貰ってもいいか?


言葉が、頭の中で繰り返し響く。
その響きは、嫌なものだとは感じない。
毎日繰り返されるざわめきたちを消してくれる、不思議な響き。
ただスーッと消えていき、心地よさが身体の芯に残る。
 

< 9 / 203 >

この作品をシェア

pagetop