満たされしモノ
「そうか、良かったな…………チッ!」


最後の舌打ちがとても気になるのだが。


僕は冷や汗をかきつつ、自分の貞操を守れた事に安堵した。


友人として補足しておくが、穴夫は決してゲイではない。


ただ、穴が好きなだけである。


「……食事中に『アッー!』なことは控えてほしいデスね。もしかして、私の食欲を無くすのが目的なのデスか?」


「違うよ! それと女子高生が『アッー!』とか言わないの!!」


女子高生に神聖なイメージを抱いている僕に、不知火の言葉はキツいものがある。


ちなみに『アッー!』とは、男性同士の交尾を意味している……


「あらあら……、本間君は一体私にどんな幻想を抱いているのデスか? まったく、かわいい人デスね、クスクス!!」


おかしそうに笑う不知火は猫のように可愛かった。


何か勘違いしている節があるが、機嫌が良くなったのであれば、余計な事は言わないのが吉である。


「宜しいデスわ。そんな愛くるしい忠犬にはご褒美デス。これで慰みなさい」


不知火は豆腐ハンバーグ定食に添えられているこんにゃくを僕に差し出してきた。


……彼女の言葉に反論したい箇所は山程あったが、僕は素直にこんにゃくをいただく。


当たり前のことだが、こんにゃくは僕の口の中に入れられた。


食べる以外にこんにゃくの用途はない……、少なくとも僕には。
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