満たされしモノ
僕は食べ掛けのマズパンに目を落とし、そっと息を吐いた。


食事中に場を暗くするのは厳禁だと分かっては……いる。


けれど、不知火や穴夫の食事に比べて僕のパンはあまりにも酷い。


マズパンを食べるくらいなら、登校時にコンビニかどこかで何かを買って来れば良い……と思うが、それは出来ない。


黎明学園の校則に『校内への飲食物の持ち込みを一切禁ずる』という決まりがある。


朝の校門で風紀委員による持ち物検査を行われる程の徹底ぶりだ。


「辛気臭い顔をしないでほしいデス。ウマパンを取れなかったからといって、女々しいデスよ」


案の定というべきか、不知火が不満げに文句をぶつけてきた。


「ああ……ご、ごめん……ウェッ!」


ニキビパンの苺ジャム(?)が喉に張り付いたため、思わず噎せた。


ゴホッゴホッ、と咳をしていると穴夫が背中を擦ってくれる。


「大丈夫か? 苦しいなら尻を浮かせて体を丸めてみろ」


僕は言われた通りにやってみた。


……が、特段変わりはなく噎せ続ける。


おかしいなと思っていたら、僕の背中を擦っていた穴夫の手が不自然に動き出す。


背中から下へ、どうやら僕の尻に向かっているようだった……


「ああ、もう大丈夫みたいだ。ありがとう、穴夫……」


僕は機敏に、けれど悟られないように穴夫から距離を取った……
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