満たされしモノ
食堂へ向かう不知火は、いつもエレベーターを利用している。


外へ出る僕と穴夫は階段を使用。


なので、教室を出るとすぐに不知火とはお別れだ。


彼女はいまだ納得してなさそうだが、ここまできたらどうしようもない。


「じゃあ」と一言だけ告げて強引に別れた。


そして現在、僕は階段の踊り場で穴夫と向かい合っていた。


 


どう説得しようかと考え始めた途端、


「刀矢、『パンタゴン』に行くのだろ?」


前置きなしに核心をついてくる穴夫。


思わず笑みが零れる。


穴夫が相手だと話が早くて助かる。


「うん。不知火には悪いけど……」


「気にするな。刀矢のやりたいようにすればいい」


「……


本当、ありがとう……」


穴夫は僕の行動を制限しない。けれど、いつも気にかけてくれる。


改めて、親友の有り難さに気付かされた。


「それから……悪いけど、食事も別々にしよう」


「そうだな。刀矢がマズパンを持ってきたら不知火が発狂しそうだ」


不知火の怒りの形相がありありと浮かんでくる。僕は思わず身震いした。


それと、僕がマズパンを持ってくる、つまり敗北することが前提になっているのが少し悲しかった。


 
< 42 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop