満たされしモノ
動揺は群衆全体に伝播していき、僕の背後では明らかに戦闘の熱が引いていた。


皆が戦闘に集中出来ていない。


――戌亥だ……!!――
――出やがったよ!!――
――ヤバい、ナイフが……――
――こ、来ないでよ!!――


もはや、全員が戌亥先輩に気を取られている。


それでもなんとか乱闘の体裁を保っているのは『ウマパン』への執着のおかげか。


だが、その均衡もいつ崩れてもおかしくない。


 


(それにしても……)


周りの動揺が逆に僕を冷静にさせた。


近付く戌亥先輩を前に色々と考えを巡らせる。


(戌亥先輩はスロースターターなのか。どうりで、昨日は気付かなかったわけだ)


『遅刻主義者(スロースターター)』とは、昼食争奪戦にあえて遅めにいく人のことだ。


他の人が体力を消耗した後に遅れて参戦する、などの作戦であったり、単なる気紛れだったり理由はそれぞれ。


とにかく、戌亥先輩がスロースターターであれば、昨日の戦闘時に早々にのされた僕が気付かなったことに説明がつく。


(体力云々はともかく、遅れればそれだけ後手に回ることになる。

それなのに……なんて余裕な態度!! よほど自信があるのか……!?)


戌亥先輩は戦闘の構えを取らない。それどころかポケットから手を出そうともしないのだった。


 
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