満たされしモノ
五分程喋り続けていたら喉が渇いてしまった。


お茶が最上級の甘露に思えてくる。


閂は僕から聞いた話を整理しているようだった。


改めてよく見ると、綺麗な人なんだよなぁ、と不埒なこと考えていると。


「マッドドッグはナイフを使わなかったのだな」


いきなりの質問で目が合い、ドキリとする。


「うん、まあ。手すら使わなかったよ」


戌亥先輩はポケットにずっと手を突っ込んだままだった。


恐らく、僕は相当舐められていた。


「……。それから、もう一つ。


奴は本当に遅れてやってきたのだな?」


閂の言い方に引っ掛かるものがあったが、取り敢えず頷いておく。


戌亥先輩がスロースターターであることは疑いようがない。


「何か気になることでもあるの?」


「いや……。ただ、以前の奴は争奪戦に遅れてやってくることはなかったと聞いている」


閂曰く、傷害事件を起こす前の戌亥先輩は至って普通に争奪戦に参加していたらしい。


調査の際、多くの生徒から同一の証言があったため間違いないとのことだ。


……ということは、事件発生後からスロースタートのスタイルになったということになるが……


正直、僕にはそのことがどれだけ重要なことなのか判断出来なかった。


少なくとも、ナイフの所持云々の方が大事な気がする。


 
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