遠目の子鬼
僕は再び英二の方を向いて、小さな声でそう呟いた。

         ★

眩しい照明がステージを照らす。それが楽器に乱反射して、きらきらと浮き上がっている様に感じさせる。


演奏会の幕が上がり、僕はステージの上。


先生が舞台の袖から登場して指揮台の前で客席に向かって一礼し、ちょっと緊張した感じで、指揮台に上るとスコアを捲り、一息ついてから、徐に指揮棒を構えた。


僕達は、それを見て楽器を構えて指揮棒は振る下ろされる瞬間を待った。


一瞬の沈黙。客席の視線も、ステージの視線も、全てがその一点に注がれた。


先生は、息をつめて、力強く指揮棒を振りおろす。同時に華やかな音が場内に溢れる。


演奏会が始まった。


僕にとっては中学最後のステージ。


そして、全てを楽しみたいと思った。
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