聖花学園~花よ咲き誇れ~
 寮の玄関で手が放されると、わたしはお礼を言いそびれていたことに気がついた。

「あ、流依。……その、さっきは助けてくれて……ありがとう……」

 照れながら言うと、頬に手を置かれ顔を上向けられた。

 そして、流れるような自然なしぐさで唇が触れた。


 触れるだけの優しいキス。

 あまり時間を置かずに唇は離される。


「礼なら、これだけでいい」

 いつになく優しく微笑んで、流依は自分の部屋に行ってしまった。


 突然のキス。

 前は怒りしか湧いてこなかったのに、今は何だか違う。

 断りのない突然のキスなのに、何故だか許せるような気がした。




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