無色の日の残像
「輝神のこの機動力は、乗り手を選んじまうんだよなあ」

 おじさんは残念そうに言って、首の後ろをぴたぴた叩いた。

「あのガキンチョの、軍での階級知ってるか?」
「え? ああ、ハイ。確か、少尉って言ってましたけど、本当なんですか?」
「本当さ。現在東で実戦に投入されてる輝神はこの【カグヤ】と、もう二機だけ。乗りこなせる人間がいねえんだ。中でもあのガキンチョの操縦テクは群を抜いてる」

 ようやく羽海を地面に降ろしてこちらに歩いてくる無色を、空気は信じられない思いで見つめた。

「エースパイロットってやつだ。ガキンチョのクセに、あんな歳でよ」

 おじさんの科白の後半は、どこか悲しそうな響きを含んでいた。

「何を話している!」と、近寄ってきた無色がおじさんを睨んだ。

「まさか西の人間に余計な情報を──」
「はっは。自分で軍事機密の塊に乗せて来といて何言ってんだ」
「・・・・・・む」

 おじさんの的を射た一言で鼻白む無色。

「とにかく、よろしく頼むよ」とぶっきらぼうに言うと、彼は羽海と空気を促して工場を歩き出した。
< 32 / 132 >

この作品をシェア

pagetop