無色の日の残像
 はしゃぐ二人にマスターは、「これが夜光虫の光だよ」と言った。

「へえ──」

 二人が幻想的な輝く波を見つめていると、無色はまだわかっていない様子だった。

「え? なに? 何があるの?」

「ありゃ。ほら、波が光ってるの、キミには見えないか?」

 そんな風に言うマスターの言葉を聞いて、空気の耳に再び透明の言葉が甦った。

 花の色なんて見えないように育った──。

「あの、マスター──成木さん、でしたっけ?」
 空気は、流木に腰掛けて缶ビールを飲んでいるマスターに話しかけた。

「雨鳥でいいよ。自業自得だけど大変だったねえ、キミタチ」

 おかしそうに笑うこのマスターはすらりと背が高くて、陽に焼けて茶色く色の抜けた髪の毛が似合っていて、男の空気の目から見ても格好いい青年だった。
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