無色の日の残像
 翌朝、無色が喫茶店の中に顔を出した時、既に羽海は起きてきていて、窓辺の席に座っていた。

「おはよう、無色」

 羽海が声をかけると、おはよう、と無色も羽海に挨拶を返す。

 それから、無色は羽海の前に置かれているコーヒーを見て、眉間に皺を作った。

「羽海はよく、そんなもの飲めるね」
「おういおいおい」

 カウンターの奧から、いつもの軽い調子で雨鳥が抗議の声を上げた。

「うわヒッド。無色くん、俺の自慢のコーヒーを、人間の飲み物じゃないみたいに」
「あ、すみません。そういう意味で言ったのでは──」

 くすくすと羽海は笑った。

「そんなに苦くないよ?」
「え──」
「とっても美味しいし」
「そうだよねー」と雨鳥が首を傾けた。

「ねー」と、羽海も雨鳥の調子に合わせて首を傾げた。

 そんな二人をしばらく眺めて、無色は決心した様子でカウンターに声をかけた。
「じゃあ、僕にも同じものを」

 ハイハーイ、と雨鳥が返事をして、「大人の味初挑戦だね」と羽海が楽しげに言った。

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