無色の日の残像
 テーブルを挟んだ羽海の向かいに腰を下ろしながら、無色は肩まで伸ばした羽海のサラサラの髪の毛や、綺麗な瞳や、胸の膨らみを見ていた。

「羽海は空気と夫婦になりたいんだよね?」

 唐突すぎる問いかけに、羽海が飲んでいたコーヒーをぶばっと吹いて咳き込んだ。

「──は? なっ!? ふう──っ?」

 前段階として存在するはずの問いを全てかっ飛ばした、見事に飛躍した質問だった。

 何とか息を整え、羽海は涙目になりながら言葉を絞り出した。

「待って、待ってよ。あのね、夫婦って、あたしたちまだ十六歳だよ? もう少し違う聞き方があるんじゃないの?」

 雨鳥が至極愉快そうなニヤニヤ笑いで運んできてくれた冷たい水を飲みながら、羽海はどうにかこうにか思考と動悸と呼吸とを落ち着けようと試みる。

 だがその試みは失敗に終わった。

「じゃあ羽海は、空気と結ばれたいと思ってるんだよね?」

 消化管に流し込もうしていた氷水を、思い切り気管の方に吸い込んで、羽海は再び地獄の苦しみを味わった。

「むすっ──むむっ!?」

「違うの?」
 口元をおしぼりで押さえて噎せ返る羽海の向かいで、無色が眉の間に皺を作った。

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