無色の日の残像
「えっ?」
 透明が驚いた様子で、長い睫毛を動かして瞬きをした。

「今は自分の足ってワケにはいかないから、俺が代わりに歩いてやるよ」

「空気──」
 透明が目を潤ませて、恐る恐る空気の背中にしがみつく。

 細い腕が首に巻きつくのを待って、空気は立ち上がり、波打ち際を歩いた。

 歩いているうちに、堪らなく悲しくなってきた。

 透明の体は、まるで人形のように軽くて、無色と同じようにガリガリに痩せていた。
 無色と違ってとても女の子らしいのに、こうして背負っていても、胸の膨らみは全く感じられない。

 吹きつける風に散らされて、空気の視界で長い長い白い髪が舞い踊っている。

「あ」と、背中で小さな声がして歩みを止めると、細い腕が足もとを指さした。

「何か光ってる」

 空気は透明を背負ったまましゃがみ込んで、波が引いた後に顔を覗かせた輝きを拾い上げた。

「わ、綺麗」
 背中で透明が嬉しそうに言う。

 波に転がされて角の取れた、小さな硝子の欠片だった。
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