無色の日の残像
「あの、雨鳥さん」
「何かな?」
「僕って、全然笑わないですか?」

 雨鳥は一瞬目を丸くして、そうだね、と首肯した。
「笑顔は一度も見たことないね」

「笑ったほうがいいって言われたんですけど」
「誰に?」

 無色は答えずに、空気と透明を見つめ続けた。

「人はどうして笑うんですか? 僕は、一度も笑いたいと思ったことがありません」

「キミは──」
 雨鳥は十六年間生きてきてそんな科白を吐いた人間を、無言で凝視した。

 それから、波打ち際の二つの影に見入っている無色の頭にぽんと手を置いて、灰白色の髪の毛をくしゃくしゃっとかき回した。

「笑いたいときに笑えない──いや、笑いたいとわからないことより、泣きたいときに泣きたいとわからないことのほうが、辛いかもな」

 無色は微動だにせずに立っていた。
 透明の笑顔を瞳に映し続けていた。

 砂浜に透明を下ろして、波打ち際をあさり始めた空気に、羽海が「何してるのー!?」と言いながら走り寄っていった。
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