あの男は私に嘘をつく
「長い間、あの人にお店任せちゃったし。」










舌をペロッと出しながら、おちゃめな顔をした。麗華姉さんにしては、珍しい顔なんだ。いっつも大人びていて、綺麗で……、私の憧れ。
でも、おじさんの話をするとき、おじさんがそばにいるとき、よくこの表情を見せる。私は、その表情がたまらなく可愛いと思えるんだ。










「そ、そっか……。」












「あの人ね、1人じゃ、なぁんにもできないんだから。」










そのあとに、小さな声で、内緒ね、と囁き、表に向かって歩いて行った。その拍子に、表にいるおじさんと目が合った。










え??









いつもみたくいじわるを言うのか、と身構えていた自分が急に恥ずかしくなった。









それは、おじさんが優しく微笑んだから。








表と奥の休憩室は距離があったけど、私の目にははっきりとうつっていた。一瞬だった。一瞬だったのに、私はその一瞬で、凄く幸せな気持ちになった。















私は1人じゃないんだね。
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