あの男は私に嘘をつく
「言いたくないなら、無理強いはしないよ。」












沈黙を破ったのは、麗華姉さんの、この一言だった。私はやっと、麗華姉さんのほうを見たが、緊張のあまりか、すぐに下を向いてしまった。










沈黙。










麗華姉さんがせっかく言ってくれたのに、私はいくら言葉を探しても見つからない。どうしたら、このモヤモヤした気持ちをうまく説明できるのか、その手段も、言葉もない。ただ頭にあるのは、まとまりのない黒い感情だった。










そのとき、麗華姉さんがおもむろに立ち上がり、机に置いてあった香水をふりかけ始めた。そして、私の頭をそっと撫でた。









「じゃあ、私はお店に出るからね。」















「………え??」












これ以上聞かないの…??一緒にいてくれないの……??









その言葉は呑み込んだ代わりに、私の目はまんまるに見開かれていた。そして、一緒にとまどいと、焦りの感情が私の心を支配していた。
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