Symphony V
ゆっくりとお風呂に入っていたかったが、レオンのことが気になって仕方がなかった。


あんなこと言ってたけど、きっと、ちゃんとおとなしくしてる…はず……


特に見られて困るようなものは置いていないが、なんとなくあさられているかと思うと気恥ずかしい。
軽くシャワーを浴びて頭と体を洗い、冷たい水で顔を洗うと、急いでお風呂から出た。

「しまった…」

お風呂から出て気づく。慌てて入ったため、着替えを持って出てくるのを忘れていたのだ。
とりあえず、バスタオルは脱衣所にいつも置いてあるので体を拭くことは出来るが…脱ぎ捨てた服の方をそっと見てみる。洗濯機の中に放り込んだのだが、残念なことに、洗濯機の中にはすでに水がたっぷりと入っていて、しっかり服達は浸かってしまっていた。

「あぁぁぁ…なんてこったぃ」

母親はあのまま出かけてしまっている。自分の服は、もちろん、自分の部屋にしかない。が、自分の部屋にはレオンが居る。

着る服がない。が、この状況をどうすることも出来ない。

途方にくれていると、パタパタと足音が聞こえた。そっと扉を開けてみると、廊下で首を傾げているレオンの姿があった。

「レオン?」

声をかけると、レオンが唯に気づく。が、状況を察したのか、その場に固まって動かない。

「いや、その…トイレ借りたいんだけど」

言われてあぁ、と唯は頷く。

「トイレはそこを右で、突当たりにあるよ」

唯に言われて、レオンは怪訝そうな顔をする。

「…でも、社長室ってプレートが張ってあったけど」

言われて笑う唯。

「あ、大丈夫。それ、私が面白そうだと思って張っただけだから。うちのトイレは社長室なの」

呆れ顔をするレオン。軽く手を振りながら、トイレへと向かっていった。

「じゃ、借りるよ」
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