キミは許婚


「お待たせしました!」



玄関から走って門前で待っている柚野さんの元へ駆け寄る。


柚野さんは怒った様子も待ちくたびれた様子もない。


今日も黒いスーツ、そしてもちろん眼鏡。


瞳を細めて笑いかけてくれた。



「息があがっていますね。落ち着いてください。食事の時間には充分間に合いますよ」



柚野さんに柔らかな物腰でそう言われると大丈夫な気がしてくるから不思議。


そのままの笑顔で柚野さんが車の後部座席のドアを開けてくれた。



「ではどうぞ。30分後に到着する予定です」



音が立たないくらい優しくドアを閉めて柚野さんが運転する車は静かに発車した。
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