水《短》
一歩一歩、枯れた景色の中を歩く。
道の先には村にひとつしかない商店がぽつんとたち、更に向こうには、殆ど意味を為さない二色の小さな信号が、今日もまた、赤く点滅している。
立ち並ぶ灰色の屋根、どんよりとした空気。
……この村は、なにもかもが錆び付いて色褪せている。
私はそれが堪らなく嫌だった。
自分の体に染み込んだ、村のすべてを捨て去りたかった。
だから。
中学卒業と同時に、村を出たのだ。
中卒の私にあたえられる仕事は限られていたが、今の時代よりはまだマシなもので、それなりに生活はできた。
職を転々としながら、村から遠く離れた、誰も私を知る者が居ない町で、友人をつくり、恋人をつくった。
私は我武者羅に、求めた。
村になかったもの、手が届かなかったものを、ネオンの中で、排気ガスに塗れ、必死にもがきながら、ときには人から奪い、私は生きた。
たった一人で、生きた。
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