―ユージェニクス―
「おまえ脱着してたのか?カツラ」
「そりゃそーだよ〜蒸れたりするし。ホントは髪伸ばして直にツインテールにしたかったんだから」

本気なのか冗談なのか…
なんだか自分がこいつを茉梨亜と間違えていたのが恥ずかしくなってきた。


…しかし、管原が言っていた咲眞の精神負荷というものは大丈夫なのだろうか?

咲眞だった記憶を消したり取り戻したり…

本人は相変わらず独特の笑みを浮かべているが、無理してたりしないのか。

自分も正気に戻ってから暫くは頭痛持ちになったり長時間呆けていたりしたものだ。


「何?拜早」
「…いーやなんでも」

いつの間にか咲眞を見つめたまま考え事に入っていた自分に気付き、平静を装って友人から顔を逸らす。

「変な拜早。さ、そろそろ行こっか」
「え、もういいのか?」
咲眞はこくりと頷く。

「一応目当ての物はあったし…それに、実は掃除でもしようと思ってたんだよね」

何故か苦笑気味に咲眞は言う。

「掃除って…そう散らかってねーぞ、ここ」

部屋にあまり物がない上、そんなに埃が溜まっているわけでもない。

「……ここに来て、僕は茉梨亜にはなりきれなかったなぁって、思ったよ」

「……」

「思わない?」

「…確かに、茉梨亜だったらもっと散らかすよな、部屋」


拜早がそう感想を述べた後、二人は顔を見合わせてふっと笑った。


いくら願ったって他人にはなれない。

人は人だから、そして、自分はやはり自分でしかなのだから。


茉梨亜として生活していたはずのこの部屋は、咲眞という人間の面影を色濃く残していた気がした。


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