―ユージェニクス―
「じゃあ訊くけど、茉梨亜君は白の怪物を知っているかな?」

塔藤は少し愉しそうにそんな事を尋ねた。


「は?……知ってるけど、大量殺人未遂犯でしょう?」

「どんなウワサだった?」

「ウワサって……無差別に人殴るんでしょ?それで全身白い男で!それが何……」


口に衝いた言葉ではっとする。


茉梨亜は事件の最中ずっと黒川邸に居た。

詳細は知らない。

だがウワサでは……


噂では白の怪物は、白髪の少年ではなかったか。




「さて、これで拜早君が一般人ではない事が解ったね」

「ま、待って!そりゃ屋敷で拜早が白髪になってたのには驚いたけど、それって関係あるの?ねぇ拜早!」

思わず当事者へ振り返る。

こんな話題を出されるなんて、関係有ると言われているのも同然だ。

それでも……



「……っ」

茉梨亜は口をつぐむ。
何も否定しない拜早はただ目の前の塔藤を見据えていた。


「塔藤さん……今、研究所が白の怪物と関わってるって言った様なものだけど……良いの?」

この状況でも尚咲眞は声色を変えなかったが、それよりも塔藤の方が冷ややかだった。

「構わないさ。この事を君達は誰にも告げ口出来ないのだからね」


その意図は……つまり。

「拜早がそっちに居る、から?」

「あぁ。拜早君の身柄は今も研究所が保有している。友達思いの君達は、拜早君を危険に晒さないだろう?」


何を言っているのだろう。

拜早は既に白の怪物として洗脳された経緯がある。それは危険な事だっただろうし、更には…

(あの白髪……)
咲眞の推測では拜早はもう……

兎に角この事態そのものが危険だ。

それに加えて塔藤はもう一歩拜早を危険に晒すと脅している。



「……ずるいな、塔藤さん」


「こんな世界だからね」
言って、軽く微笑んだ。


「拜早……!」

茉梨亜は困惑しながら白髪の少年を見つめる。


「……拜早君、君は分かっている筈だ。俺達の所に戻るべきだと」


「……」

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