―ユージェニクス―
エレベーターランプが上階を上がっていく。
それから目を逸らした先に、壁に掛けられたB4という文字があった。
……つまりは地下四階の廊下。
研究所員がちらほらと移動しているのが伺える。
倉庫だらけかと思っていたこの最下層だが、案外研究場所としても使われている様だ。
「……」
佐倉泉は微かに目を細めた。
セミロングの黒髪に細淵の眼鏡が似合う、パンツスーツ姿の美人である。
彼女が何の気無しに触れた壁は、ひんやりとしたコンクリートの感触だった。
「佐倉さん」
ふいに呼ばれた声で我に反る。
泉は微かに笑顔を浮かべて、何?と添えた。
「こちらはチェック終わりました……そちらの方はどうですか?」
「そうね、私ももう少しよ」
片手に何やらレポートを持つ泉。
そして泉に声を掛けた青年も、資料を手にこちらへ向かってくる。
白いワイシャツにネクタイ、その上には作業用なのかポケットが多く付いた長めのジャケットを羽織っていた。
彼も端正な顔立ちで、丁寧な言葉使いに対しどこか冷めたその目付きが、それに拍車を掛けている。
「それにしても仕事が早いわね、折笠さん」
「いえ」
先程の初顔合わせから一度も、この折笠と呼ばれた青年は泉に笑顔を向けた事がない。
例え同業者といえども、泉はこの青年に関わり難さを覚えていた。
泉はとある調査でこの研究所へ来ていたのだが、この折笠も泉と同じ用事でここへ訪れたのだという。
「……さ、これでラスト」
そう呟きながら、泉は近くの扉の足元付近に何かを置いた。
「…さっきから置いていますけど、何ですかそれ」
折笠は表情は変えずとも訝し気に問う。
「これ?内部配線の劣化を計ってるのよ……知らない?」
「はぁ、僕の会社には無い物ですね」
泉が各所に置いていた物は、手の平に納まりそうな四角い物体。
「壁に付けるとその中の電気経路や配線の正常機動を計算してくれるの。携帯用だから計るのに時間は掛かるけれど」