―ユージェニクス―
「……ん?君、誰だい?」

「質問しているのはこっちだがね、塔藤君」


金髪の研究員は律子を見下ろして首を傾げる。

それを庇う様に間宮が立ち、相手を見上げた。

背丈の差がなんだか悲しい。


「ははは間宮先生、用が無いならこちらにボクは来ませんよ」

「ならさっさと用件を言いたまえ!」

「この資料、ボクの班に紛れていたので」

そう笑顔で言って、塔藤は持っていた紙の束を手渡した。

「どうぞ」

「ん、あぁこれは……すまないね」

言葉だけ労って間宮は厳しく紙束を受け取る。

「ほ……ホラっ用が済んだらさっさと戻りたまえ!」

「酷い言い草ですねぇ、たまにはこちらの仕事場の見学ぐらいしていいでしょう……ね?」

といきなり振られて律子は目を丸くする。

「えっ」

「君、次来る中途採用の子?」

「ああそうだ!早く仕事を覚えたくて自主的に見学に来ているんだ!」

間宮が毒づきながら塔藤を睨む。

「勤勉な新人だよ……君の班のあれとは大違いじゃないか!」

「ははは確かに」

嫌味を言ったはずが同意されてしまったので間宮は呆気に取られる。


「でも……そうかぁ、偉いね」

改めて見られて、律子は恥ずかしそうに……顔を眼鏡の奥に伏せた。


この塔藤の風貌、無表情に黙って立っていたら怖そうだが……

律子がちらりと目だけで見上げると、見様によっては男前な顔立ちに穏やかな表情があった。

「ぅ……」


「で、間宮先生は優秀なこの子をさっそく勧誘というわけですか」

「な…!ぼっ僕はただ案内や説明をしていただけであって…」

にこにことした塔藤とギラギラした間宮に挟まれ、律子はどうしたものか分からない。


「案内ねぇ、でも間宮先生はお忙しいんじゃありませんか?」

「は?どういう意味だね」

「先生に変わってボクが案内しますよ?ボク今日は仕事片しましたから」

「え…っ?」

その塔藤の提案に律子は思わず驚きの声を上げた。

「あの、それは……」

「そうだ塔藤君!村崎君は僕に任せたまえ!」

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