―ユージェニクス―
泉はでしゃばりかけた口元を押さえる。

「新設のフロア……ですか」


成る程。
しかし……


「言ってくだされば、こちらももっと人数を派遣致しましたのに」

皮肉ながら笑顔で言う。

それを管原は悪びれもなくくつくつと笑って返した。

「そーだなぁ、こんな美人が来るんだって知ってりゃアンタんとこ押したんだけどな」

そして泉の顔に手を延ばす。


「…触った時点でセクハラですよ」

「……残念」

にやりと笑われ、泉は呆れて目を細めた。


「では、僕はもう行きます」

「ああ。宜しくな」

軽く片手を上げ、管原は二人と擦れ違う様に歩き出す。

「どっかで会った気がするんだがなぁ」と呟きながら。




「…………」


その後ろ姿を見送りながら、泉の眉が顰められた。


いくら同じ職種の業者に頼んだからといって、こちらからしてみれば全てライバル会社だ。

お抱え会社があるにも関わらず、何故わざわざ他の同種の会社に調査を依頼したのか……



「佐倉さん」

そんな思案を巡らせていると、不意に泉の手が掴まれる。

「え?」

掴まれる、というより手を取られていた。


「どうしたの……折笠さん?」


「一緒に行きましょう」


「は?」


意味が分からず泉は目を丸くする。

すると相変わらず抑揚のない声を発せられた。


「……僕の調査、手伝って貰えませんか」



< 301 / 361 >

この作品をシェア

pagetop