―ユージェニクス―
「……私はAMN建築の者です」

にこりと返す。
お抱えなのだからこれで通るはずだ。

「あっそーなの。いやぁこんな綺麗で若いコ来たの初めてだな!いつもオッサンばっかだから……」

つかつかと歩み寄り、管原は泉に顔を近づけた。


「……おねーさん、俺とどっかで会った?」


「……ナンパですか?」

ふっと笑って泉は返す。
すると管原は飄々とした様子で続ける。

「こんな美人さん放っておいたら罪ってやつだろ?」

「……私、一心に働く方が好みですの」

残念そうに泉は肩を竦めて見せた。

「あらぁこれは手厳しい。じゃあ一心に仕事をするとしますかね」

事実管原は手持ちの資料があるところからして仕事真っ最中なのだろう。
今回は潔く泉から身を離した。

「じゃーなお嬢さん、検査宜しく頼むわー」


そう軽口を叩いて管原は歩を進めようとする。

「管原さん」


それを呼び止めたのは折笠だった。


「ん?」

「例の個室フロアも教えて貰えますか」


「…?」


折笠の問い掛けが泉にはよく理解出来なかった。


「そちらの構造も一度検査して欲しいと言われているんですが、何分フロアの把握が出来ていないもので」

淡々と理由を伝える折笠は、本当に仕事さながらの態度に見えた。

管原は口元に笑みを残しながら目を細める。


「あぁ……あそこね」


泉は管原と折笠を交互に見やった。

(例の個室…?仕事用の資料に個室みたいな表記は無かったはず……)

お抱えである自分より、折笠が何故そういった所の依頼までされているのだろうか。


「わ、私も行きます」

管原にフロアの道順を確認していた折笠の横へ泉も並んだ。

だが、残念な事に制止が入る。


「いや、おねーさんは受け持ちのとこだけ頼むわ」

管原に、それが普通だと言う様に見下ろされる。

「しっしかし」

「只でさえおたくは広い範囲の調査だろ。プラス新設のフロアまで手回して貰うのもなんだから、もう一つ業者を追加したってわけ」

そう説明された。

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