テディベアは裏切らない
彼女が死んだのは、ちょうど一年前。私が中学三年生の夏だった。あの日も、日差しは真っ白で、空は青く、彼方から入道雲の赤ちゃんが風と冒険をしていた。

クラス替えで見かけた時からずっとひとりで本を読んでいる子がいた。ずっとずっと。ずぅっと。本だけが友達で、本だけが話し相手で、彼女はカーテンでできた日陰の席に座っていた。クラスの人気者で、だれにでも親しげに話しかけていた伊藤さんも、その子には絡んでいないようだった。

彼女は、ひとりだった。だから私が話しかけた。「なにを読んでるの?」とか、「その本おもしろい?」とか、当たり障りのない質問から。

私も昔から本は好きだ。だから、そのうちに私は彼女と打ち解けていったし、馬が合った。そうして、お互いに下の名前で親しく呼び合うようになった頃、私はずっと思っていたことを切り出した。

「ねえ、私以外の人とも、話してみたら? もっとたくさん友達作ろうよ」

それが間違ってた。

彼女は、親友となっていた私の言葉に、渋々ながら頷いた。だって、親友の気遣いを断れる人なんて、滅多にいない。私はきっと、そうと熟知していて、わざわざ彼女の親友になるまで、この言葉を取っておいたんだ。

それから彼女は、私を仲介していろいろなクラスメイトの話に参加した。私は文系でおとなしい性格だったけれど、他人と話を合わせるのだけは上手かったから、彼女を紹介する友達はたくさんいた。特別どのグループにも所属していなかったから、逆を言えば、どのグループにだって入っていけた。
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