テディベアは裏切らない




放課後、私はレナちゃんに呼び止められた。

ほたるちゃんは空手部に、私は文芸部に、彼女は帰宅と、行動はそれぞれいつもバラバラだった。だから肩を掴まれた時には少し驚いたし、彼女が私をジッと見つめ、

「小百合――今、病んでない?」

と、昼休みのユウちゃんを思い出させるようなことを言ったのには、もっと驚いた。

ほたるちゃんが、「どうしたんだ?」と訊ねてくる。けれどレナちゃんは、私を気遣ってか、それともほたるちゃんにまでよけいな心配をかけたくないのか、「なんでもないわ」と答えた。そして私に小声で、「ちょっと付き合って」と。

たぶん、拒絶はできないんだろうなと、レナちゃんの声から判断した。一オクターブ、普段より低かったから。

私はレナちゃんに連れられて、教室を出た。まさか、壮馬くんの差し金か。部室長屋へ行くのか。思ったけど、違った。レナちゃんは、階段を上り始めたんだ。

屋上は、開いていない。学生の飛び降り自殺も珍しくない昨今、屋上へ行くための扉には鍵がかかっているし、滅多なことだと鍵も貸してもらえない。屋上に上がったこともないまま卒業する生徒も多いらしい。

だけど、彼女の目的地は屋上じゃなくて、屋上手前の踊り場だった。屋上がすぐそこに見えるスチール製のドアの窓からは、夏の日差しがカンカン注いできていた。床に落ちた四角形だけが、異様に明るい。眩しくて見ていられない。私は窓の光からも、レナちゃんからも、そっぽを向いた。

「ここならじっくり話せるわ」

彼女が、階段に座る。

「だれも来ないから」

だれも? ああ、なるほど……。人は、行くことのできない場所には行かない。屋上前の階段は、彼女にとって秘密の場所だったのだ。
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