テディベアは裏切らない
「もう、そんなの持ち歩いてないと思ったんだけどなあ、私」

「あら……知ってたの?」

「うん、まあ、気づいてた。でも、今も持ってるなんて、ほんと思わなかったけど」

「そう。……なんかごめんね」

「ううん、いいよ、別に」

自分の傷を下ろせない気持ちは、私にはよくわかる。それはまさしく、痛いほど。もっとも、私の傷は彼女のそれのように、明確な傷みとして残らないのだけど。

「ほたるにはやめろって言われたんだけどね。……あとアイツ、中崎壮馬にも」

「ふうん……」

おかしいな。彼女が自傷するのを見過ごせなくて壮馬くんに縫合をお願いしたのに、今また彼女がカッターの刃を出して、手首にあてがって、ゆっくりそれをスライドさせることに、私はなんの焦りも不安も、嫌悪感も抱いてない。

「……とめないの?」

そう、レナちゃんは訊ねてきた。浅く傷つけられた手首からは、内側から滲むように、赤い線が浮き出て、小さな小さな水滴の列を作っていた。

私はそれをぼんやり眺めながら、

「とめたら、やめてくれるの?」

と訊ね返していた。溜め息を連結させる。
< 34 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop