テディベアは裏切らない
「私がとめても、レナちゃん、やめてくれないんでしょ」

「どうして?」

「だって、そんな気がする」

私も、止められたってやめないから、とは言わない。

レナちゃんは黙った。一瞬苦笑して、でもすぐに収まる。自分の手首を見つめて、赤い玉と玉がくっついて、細い筋になって皮膚を伝って行くのをジッと見てる。やがて、それがリストバンドに触れそうになる手前で、レナちゃんは血を舐め取った。

「血を舐めるなんて吸血鬼みたいだよね、私」

そう、自分を比喩して、レナちゃんはスカートのポケットから絆創膏を取り出した。幅が広く、ガーゼが厚目のやつだ。そんなものを用意しているってことは、今日の自傷は突発的なことじゃないらしい。

レナちゃんが、ひょんなことを言う。

「吸血鬼ってさ、日の光を浴びると灰になるんだってね」

「そうだね」

彼女が、日の照るところへ出た瞬間、どうなったか……。

彼女が絆創膏を貼るのまでジッと観察していたら、急に、笑われた。今度のは失笑だ。

「なにかおかしいの?」

「うん、なんか驚いちゃったのよ」

「なにが?」

「だって小百合、ほたるみたいにギャアギャア驚かないから。フツーこういうのを見たらショック受けたり、なにやってるのって騒いだり、私からカッター取り上げたりするのが友達としての反応じゃない?」

「……そうかな」

と、私は首を捻った。そしてすぐに頷いた。
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