テディベアは裏切らない
「そうだね。そのほうがフツーかも」

実のところ、いま、なんにも考えていなかった。彼女が自傷をしていたことも今さら知ったわけじゃないから、驚きもない。やめてくれていると思っていたから、そういう意味のショックはあるけれど……このショックは、跳び上がるよりも呆れるほうに働いていた。跳び上がるより、うなだれる方向。だから首が横に揺れる。ふるふると。

「でも、レナちゃんだって、理由があってやってるんでしょ。それ。なんにも聞かないうちから否定はできないよ」

壮馬くんに止められて、自傷することでほたるちゃんもどれだけ傷ついていたかを知った今でも続けている理由なら、なおさら。

レナちゃんはひょいと肩を竦めた。

「別に。……今度のこれにはなんの意味もないよ」

そうして、リストバンドで絆創膏を隠したレナちゃんは――カッターを私に向けた。

「ねえ、小百合……いい加減、その態度やめたら?」

「? なんのこと?」

「だからその、肝心な部分に触れないようにしてるみたいな態度。あと、ワタシナンニモシリマセーンって風にとぼけるの」

「うん? どういうこと?」

「また、ばっくれるつもり?」

「というか、レナちゃんの言ってる意味がわかんないよ?」

「ふうん。じゃあ、私が前からリスカやってたことは、小百合、知ってた?」

知ってた、と答えたくなくて黙っていると、

「そう。だからそういうの、やめたらって言ってんの」

レナちゃんは指の間にカッターを挟んで、ぷらぷらと揺らした。
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