テディベアは裏切らない
けれど――埒の明かない返答ばかりしていたらきっと、この時間からも解放されない。
いいよ、レナちゃん。答えてあげる。でもそれは、私の傷がアナタに癒せると思ってじゃない。

窓から差し込む日差しは、相変わらず眩しい。私は目を細めた。いや、いっそつぶった。

「レナちゃん……それを聞いて、どうするの?」

瞼の裏には、ピンクなのか緑なのかわからない、変な残像が泳いでいる。さっきの強い光のせいだ。レナちゃんの、若干戸惑った声と、こもって熱されている空気のぬるさだけが、今の私の世界。

「なんか悩んでそうなのが、友達としてほっとけないの」

「ふうん。……そおっか。優しいね」

「……バカにしてんの?」

「バカになんかしてないよ。でも、優しさだけじゃどうにもならないって話」

「それでも……話してみてよ」

「じゃあ言うけど……私、中学の時、ひと殺したんだ」

これじゃかわいそうだから、もう少し詳しく教えてあげる。

「殺したっていうのは、比喩だよ。でもね、私のせいで死んだも同然の体験をしたの。ちょうど、去年の今ごろ」

「それ悩んでる、わけ?」

「違うよ。もう悩んでなんかない」
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