テディベアは裏切らない
くだりの階段を、見やる。ゆっくり上ってきている壮馬くんがいた。小脇に抱えているのは、だれよりも彼を理解し、だれよりも彼の言葉と心を体現する協力者――中崎壮馬手製の、テディベア。

「あーあ、今日は千客万来ですね」

と思ったし、言葉にもした。

彼がテディベアを持ち出した時は、いよいよ、相手の心に踏み込もうというとき。

彼の目を見つめたことは、ここしばらくない。彼に、私の傷のすべてがわかるとは思わないし、なおさら、癒せるはずがない。だから小脇に抱えられているテディベアが、とても滑稽に見えて仕方なかった。

「そのテディベアは、私のつもりですか?」

なにより、なんの装飾もなされていない、目も鼻もない、シルエットだけが出来上がっている真っ白いテディベアが、おかしかった。手作りのテディベア一体一体に、彼は意味を持たせる。なら、その真っ白のテディベアもそうなのだろうけど……どんな意味が込められているんだろう。

そして、彼の込めたメッセージは私の心に届くのか。少し冷めた思いで、彼の言葉を待ってあげる。

壮馬くんは苦い表情で私を見つめ……見つめ……見つめて……
なにも、言わない。
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