テディベアは裏切らない




壮馬くんの思惑はわからない。わからないから、あのテディベアを素直に部屋に飾る気にもなれない。もっとも、意味がわかったから飾るのかと言われたら、それもまた違うのだけれど。

ぴちゃ、ちゃん。

と水音がした。天井についた湯気が水滴になり、落っこちて、湯船のみなもを叩いたんだ。どうやら、とても長い間、ぼうっとしていたらしい。片手に、カミソリを持ったまま。

手首は切ってない。ただ、レナちゃんの気持ちはどんなだろうと、ふと思い立ってやってみた。――ところまでは本当に切ってみようかと思っていた。けれど、いざ手首にカミソリの刃を近づけたらそれはとても恐ろしいことで、呼吸がだんだん早くなって、自分の目がカミソリの刃から離れなくなって、肌の微細なキメまで見えるくらい意識が集中してしまって、くらくらして、だから結局、諦めた。長い溜め息を吐きながら仰向けになって湯船のふちに頭を預け、瞼を閉じた。それから、水滴が落下してくるまでぼうっと、ひたすらぼうっとしていた。

お風呂においてある、熱帯魚の形をした防水時計はすでに、九時を回ろうとしている。八時にお風呂に入ったから、かれこれ一時間近く、湯船にたゆたっていたことになる。たぶん、手も足も指がふやふやにふやけている。

脱衣所のほうを、首だけ傾けてちらりと見やる。曇り戸の向こう、着替えを置いてあるケースの中に、白いシルエット。テディベア。目も、鼻もない、真っ白なアイツ。壮馬くんからの贈り物。
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