テディベアは裏切らない
「あら、なあにこれ、テディベア?」

脱衣所を去ろうとしたお母さんが、気づいたらしい。ケースの中から、真っ白い彼(それとも、私にあてがったなら、彼女?)が、お母さんに抱えあげられるのを見た。

「目も鼻もないわ。でも真っ白で、綺麗ねぇ。……ねーえ小百合、このテディベア、なんなの?」

「さー。お友達がくれたんですけどね、どういう意味があるのかは聞きませんでした」

聞くつもりもなかったのだけれど。そして今後、知りたいと強く思うことも、たぶん……。

「ふーうん」

何度か頷いて頷いて頷いたお母さんは、テディベアをもとの場所へ戻すと、小さく笑った。

「なんか、小百合に似てるわね、この子」

「!?」

じっくり煮込まれて輪郭の崩れかけていた脳味噌も、一瞬で復活するような言葉だった。

どういう意味で? いったいどこが? それを訊ねたい欲求と、冗談を言わないでほしいという否定の感情とが同時に喉を駆け上がってきて、結局どちらも言えないうちに、お母さんの姿は曇り戸の向こうにぼやけてしまった。

あのテディベアが、私に似てる……?

私はそれからしばらく、天井のしずくが何滴も落ちるまで、曇り戸のお風呂の中からテディベアを睨み続けた。

なんとなく、すぐにあのテディベアと対峙するだけの勇気が、出なかったから。
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